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じりりりりりりりりりり、 「んーあと、ごふーん……………って、もう朝!?」 目覚ましの音にたたき起こされてベットから体をおこすと、時計の針はもう七時半をさしていた。 飛び起きた部屋は、見慣れた自分の部屋とは全然違くて一瞬「あれ?」とはてな印が宙に浮かぶ。ああ、そういえば寮生活はじめたんだっけ。遅い気もするけど、今更ながらに実感した。 昨日の夜、翼さんと柾輝くん(椎名さんの隣に座ってた子だ。実は同い年だったらしい)と仲良くなった夕食のあと、私たちは西園寺先生に連れられて本校舎から五分くらいのところにある鳴神寮へとやってきた。 外見は、洋風の小さなホテルみたいな二階建ての建物。中に入って一番最初に目に入ったのはおっきなソファーとテーブルが置いてある応接室(西園寺先生がそう言っていた)そこから左右に扉があって、両側に同じ数だけ部屋がある、そういう造りの寮になっているようだった(西園寺先生談) ちなみに私の部屋は、左側の扉を開けた先、廊下の突き当たり。101B号室。一応、左側が女子で右が男子、って分けられているらしいんだけど…女子なんて私ひとりしか居ないから、まあぶっちゃけ私と他男子という分類だ。贅沢なんだろうけど…それをちょっとだけ寂しく感じてしまうのは、私の我が侭なのかなあ。 寮の簡単な説明を受けた後、みんな疲れているだろう、という西園寺先生の配慮で私たち生徒は自分たちの部屋に直行させてもらった。とりあえず私は荷物をほおり出して、部屋の備え付けお風呂に入って、ベッドに直行した。やっぱり昨日はいろいろありすぎて本当に疲れてたし。ベットに入ったら五秒と待たずに眠れた気がする。 そんな昨晩だったから、まともに部屋の中を見るのは、今この瞬間が初めてなわけで。 ベッドから降りて、ぐるりと部屋を眺める。 やっぱり、想像以上に広い。それが改めての第一印象だった。もともとが、二人から三人で使う部屋みたいで、ベットは二段だし、備え付けのクローゼットもしっかり二つあるし。机とかテーブルとか、ちいさなタンスとかはひとつしかないけど、その分空いたスペースがやけに目立って、ちょっと寂しい。 まあ、仕方ないんだけどね。かなり無理やりだったけど、自分で自分に言い聞かせた。結局、鳴神寮の女の子は私ひとりなわけだし。他の寮だって多くて二人だしさ。 「…着替えちゃわなきゃ」 ベッドから離れて、大きな欠伸をひとつして。 西園寺先生が解散前に言った、今日の集合時間は八時。最初だから、朝ご飯とかは寮生で一緒にとるらしい。他のいろんな学園生活上の諸注意とかも、朝のうちに済ます、って言ってたから、絶対遅刻だけはまずいだろう。 ガラッと音をたててクローゼットを開けると、先生が言っていたとおり、一通りの制服がそこに揃っていた。グレーのプリーツスカートが夏冬二着。ワイシャツが半そで長袖それぞれ三枚。うわ…夏用のポロシャツまであるよ!あとはベストとセーターが色違いで二枚にずつに、コートかな?前紐で止めるタイプの、防寒着みたいのまである。ほんと…どこまでも面倒見てくれるところなんだなあ。 肌で感じる部屋の空気はそんなに寒くなさそうだったから、私はスカートの上に長袖のワイシャツとグレーのベストを着ることにした。制服を着るのは初めてじゃないけれど、これまでと違う服装に、なんだか、変な感じした。 「……ん?」 ふと視線を横に動かすと、クローゼットの端の方に紅い細い紐がぶら下がっているのに気付いた。 「ああ、これがリボン、ってわけね」 昨日、西園寺先生が言っていたことを思い出す。 ――――― 寮ごとに、色違いのネクタイがリボンがあるはずだから、ちゃんと忘れずにしてきてね。 確かに、事前に言われてなかったら見逃してしまいそうな細い紐。とりあえず、結んでおきますか。 首が窮屈になるのは嫌だから、ちょっと弛めにちょうちょ結びをつくる。うん、完璧。 「…うんっ、ばっちり」 なんだか未知の領域ってやつなんでしょうか。今までの制服はリボンもネクタイもなかったし、色も濃紺だったから、またひとつ世界が変わった感じがする。洋服ひとつで視界って、こんなに変わっちゃうものなんだ。 「げっ、もう十分しかないじゃん!!」 起きた時はそんな切羽詰ってたわけじゃなかったのに、いつの間にか部屋の時計の針は集合の時間に近づいている。 その後、急いで身支度を整えてから、私は集合三分前になんとか部屋をでることができた。 これまた今更だけど、朝はもっと余裕をもって起きるべき。中学三年にもなって、こんなこと再認識してる自分がちょっとだけ哀れにみえた。 |