くのもわらうのもなげくのもあいするのも、



俺との出逢いは、高校一年の春に遡る。
俺には中学からつるんでる四人の親友がいて、はその中のひとり、勘右衛門の幼馴染の女の子だった。
外部受験組で、高校から同じ学校に通うことになったのだと、勘右衛門に紹介されたと出逢ったのは、入学式の直後。真新しい高校の制服に身を包んだを初めて見た瞬間を、俺は今でも鮮明に思い出せる。だってそれは、俺が恋に落ちた瞬間だったから。

名前を聞いて、よろしくと笑い合って。それから先も常に一緒だったわけじゃないが、勘右衛門を間に挟んで話す機会は多かった。話せば話すほど、感情を交わせば交わすほど、俺の中の深い部分にが詰まっていって。気が付けば、のことを考えない日はなくなっていた。
ああ、そっか。おれ、あいつのことが、ほしいんだ。
そう実感したときには、俺の中のほとんどがで埋まっていて、もう他の感情を掘り返すことができないくらいだった。
に俺の想いを告げて、運良くと言うべきなの、にも同じ気持ちだと言ってもらえたときの感動と言ったら、なかった。きっと「言葉にならない」ってのは、あんな状況のことを指すんだろう。

神や仏が気前よく俺の願いを叶えてくれるなら、俺はあいつから俺以外の記憶を消してほしい、と願う。
あいつの中から俺以外が消えれば、あの小さな胸を占める存在が俺だけになって、あいつの瞳には俺しか映さない。
それは、なんて理想郷なんだろう。

そんなことを願ってしまうくらいに、俺は、のことを――――




「やっほー八左ヱ門。お前んち、金魚飼うことになったんだって?」
「なんで知ってんだ、勘右衛門」

大学の食堂で飯を食っていた俺の隣に、同じくランチの乗ったトレイを持って勘右衛門が陣取る。他の連中は、恐らく雷蔵に付き合って、まだランチのメニューを悩んでいるんだろう。いや、兵助は豆腐のついてるメニューを選んでいるだけか。

「さて、なんででしょう?」
「俺に聞き返すなよ」
「まあ、ぶっちゃけに聞いたんだけどね。『実家にあると思ったら、もう捨てられちゃってたから、金魚用の水槽を貸してくれ』ってメール来た」

いっただきまーす、と手を合わせて箸を持つ勘右衛門。ニコニコと笑いながら美味そうにランチの味噌汁を飲んでいる。それをじぃぃっと見据えていると、気が付いたらしい勘右衛門が元から大きな目を更に大きく丸くした。

「なになに八左ヱ門。なんか俺、ついてる?」
「……いや、何にも」
「なんだよ、じゃあ。あ、日替わりランチ食いたかったとか?」
「ちょっと、孫兵のこと考えてただけだよ」
「伊賀崎?ああ、そういえば可愛がってた蛇、死んじゃったんだっけ。八左ヱ門、中学の時から生物委員会で一緒だもんな」

高校の時は生物委員、職員玄関の脇の水槽も管理してたんだよなー確か。大変だよなー。
ケラケラ笑う勘右衛門は、きっと俺の胸の内なんて、知りもしない。
俺が今、十年来の親友のことを、消えてしまえばいいと眺めていたなんて、気付かれるわけにはいかない。


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