sogno Tre







それは、間違いなく夢だった。

ふわふわとたゆたうような浮遊感と、考えているはずなのにちっとも働かない故障気味の思考回路。立ち竦んでいるはずなのに地面を踏みしめる感触はなく、髪はなびいているくせに風音は耳を震わせない。


わたしは、しってる。このゆめ、ずっとまえから。


目の前に広がるのは、高台から一望できる大きなオレンジ色の太陽と、それによって染まったミニチュアのような街並み。とても日本とは思えないスケールの大きな山々と森が、それらをまた囲むようにそびえている。


わたしは、しってる。このふうけい、ずっとむかしに。


そこで私は、膝を抱えて草の上に座っていた。
視線は目前の夕焼け色に向かっている。蒼色に、藍色に追いやられていく燃えるようなオレンジ色を、ただ一心に見つめている。


わたしは、しってる。あのよるのはじまりを、なんども。


すぐそばで、草が潰された音がする。紙を握りつぶすよりも心地よい特別なメロディ。懐かしいけれど寂しさを呼ぶ湿った音色に、私は何故か胸騒ぎを感じていた。なぜ?音を聴いて、どうして胸騒ぎを感じる必要があるというのだろうか。ただ音は、その瞬間の姿を偽りなく示しているだけなのに。


わたしは、しってる。あのひにかんじた、むなさわぎのげんいんを。


私は知らない。
こんな夢も、こんな風景も、こんな日暮れも、胸騒ぎの訳も。
私は、知らない。


わたしは、しってる。

私は、知らないはずだ。


わたしは、しってる。


ズキリ。痛みのないはずの世界で、心臓が大きく啼きだす。
呼応するようにどくどくと響きはじめた頭を抱えて、私は更に強く膝を抱えた。
さっきよりも近くで草がくしゃりと鳴った。細く開いた視界には、長く伸びた黒い影。また、彼が来ているのだ。
彼ってだれ、と知らない自分に問いかけると、唐突に耳に届いた誰かの声。知らない、と叫ぶたびに鮮やかになっていく世界の彩り。
ただ一度、彼に返事を返したならば、この不安は消えるのだろうか。けれど、開きかけた唇は他でもない彼自身によって阻まれてしまった。


わたしは、しってる。わたしは、しってる。わたしは、



「今日も来てんのか、ガッタ・ネーラ。てめぇら、そろって物好きだなあ!」



ぐるり、知らない知ってる声がきこえて世界がゆがんだ。
オレンジがインディゴに喰われてくあたたかな場所で、小さな私が笑っているのが見えて。

視界は、消えた。



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※夢、3。