#2-4




地域ごとに場所の決まったゴミ捨て場に二日分のゴミを捨てた私は、その足でウンディーネをかっ飛ばして新京都メインターミナルに向かった。
新日本の西側最大の都市と言われる新京都の玄関口。大型船が余裕で二十隻くらい泊まれる大きさの港は、いつだって人で溢れている。
出る人と入る人で溢れかえった出入り口近くの停泊所にウンディーネを預けて、小さなリュックサックをひとつだけ背負った。

「与志さん…まだこっちにいるといいんだけどなー」




「ごめんくださーい」

メインの入り口からターミナル内に入ってから、一応"関係者以外立ち入り禁止"って書いてある看板を飛び越えて入ってきたバッカニアの専用停泊所。とりあえず、部外者ってことで入場の挨拶だけしてみた。
不法侵入者である私に返って来たのは、案の定疑惑の視線。うわっ!あっちの乗組員さん、ちょっと目つき怖いし!まあ、ここで捕まって追い出されても、別に文句は言わないんだけど…とりあえず、バッカニア頭領の妹分としては、何事もなく通していただけるとありがたいわけで。
なーんてことを考えてたら、話のつきそうな黒髪のお兄さんがこっちに歩いてくるのが見えた。

「こんにちはー、カズさん。お久しぶりですね」
「なんじゃ、の跡取か。何しよるん?」
「やだな、カズさん。そんな恐い顔しちゃってーもてませんよ、それじゃあ」
「冗談ば言いに来たなら帰れ。邪魔になっちょる」

うわー相も変わらずカズさんはきついっすねーでも、与志さん曰く、そこがカズさんの良いところ!だから私もカズさんのそんなところが大好きです。

「別に、お前に好かれとっても嬉しくなか」
「なんで、私ってば好きな人に好きって言ってもそう言われちゃうんでしょうね。圭介さんも私が大好きです!って言うの怒るんですよねー」

あと、与志さんも。私は最大限の愛情表現をしてるつもりなのに…もちろん、誰彼構わず言ってるわけでもないんですよー圭介さんとカズさんと与志さんだけです、面と向かって言ってるのは。

「そぎゃんこつ…いや、よか。
 で、用件はなんじゃ」
「なんか、ものすっごく話をそらされた気がするんですけど…ま、いっか。
 えっと、今って与志さん、新京都にいたりしますか?」
「頭領は今」
「副頭領!!」
「……なんじゃ」

突然加わってきた声に振り返るカズさんの視線は冷たい。一応、不法侵入者は私のほうで、話しかけてきた彼は同じ会社の社員(バッカニアのシステムでは船員か)なはずなんだけど…


バッカニアは、マティアカンパニー、藤村屋と並ぶ新日本三巨大会社のひとつで、ここ十年くらいの間に思いっきり成長してる若手の企業だ。
ちなみに会社のトップは頭領って呼ばれている与志さんこと、城光与志忠。副頭領は三人いて、そのうちのひとりが私の前にいるカズさんこと功刀一。
"アララト再来の日"以来、大きく流れが乱れた海を、独自のルートと巨大船で迅速安全に渡り、日本における殆どの物品運搬を受け持ってる会社、らしい。らしい、っていうのはこれ全部、私が与志さんから子守唄代わりに聞いただけで、実際問題良く理解できていないからである。だって、バッカニアはどちらかっていうと大型船での移動が主流だから、新京都から一度しか出たことのない私には殆ど無縁の会社なんだもん。
でも、大好きな与志さんとカズさんがいる会社だし、他のメンバーもみんな優しいから。大企業なバッカニアだけど、嫌いじゃない。それに、与志さんは私のお兄ちゃんみたいな存在だし。小さいころはいっぱい遊んでもらったっけなー


「…い…おい、聞いちょるんか」
「え?」
「頭領は今、新東京にいっちょる。じゃけん、用じゃったら俺が聞く」
「あれ?さっきの人はよかったんですか?」
「あれは、お前のことば聞きに来たんじゃ」
「あーそうですよね。私、思いっきり不法侵入ですもんね」

苦笑いして頭をかいたら、わかっているなら来るなとそっぽを向かれてしまった。
そんなことを口で言っておいて、それでも追い出さないからカズさんが大好きなのだ。
…そんな、大好きなカズさんと与志さんのいる会社だから、ね。情報提供は、当然だよね。

「ねえ、カズさん」
「なんじゃ」
「最近、お客様からお問い合わせが多いんじゃないですか?たとえば ―――――― ペットがいなくなった、とか」
「っ!そぎゃんこつ、なしてお前が」
「たぶん、八番あたりが怪しいと思うんですよね、私」
「……確かか?」
「はい。あ、だけど、一斉突入は今日の十時以降にしてもらえませんか?確か、荷物運搬船の一番大きいのがでるの、明日の朝一ですよね」
「…わかった」

厳かに頷く様は、十九歳とは言えど副頭領としての威厳に溢れてた。
これで、大丈夫。あとは、時間を待つだけだ。
そう思って安堵して、ふいに浮かんだのはついさっきのカズさんの言葉だった。

「あ…!そういえば」
「なんじゃ?まだあるんか?」
「いや、あんまり大したことじゃないんですけど。
 私のこと、の跡取、っていうのやめて下さいね。これ、もう九回目ですから」

個人的には重要なことだったのだけど、案の定アホかの一言で、事実と一蹴された。