#2-3




「あ」
「あ」
「おはようございまっす、一馬くん」
「おは、よう」

ゴミ袋ひとつ片手に持って部屋の鍵を閉めてたら、丁度階段を登ってくるお隣さんの一馬くんを発見した。
あーそっか。今日、一馬くんは夜間警備担当の日だったんだっけ。ということは、明日がお休みで今日はこれから就寝なのかな。

「お仕事、お疲れさまです」
「いや…別に」
「あ、ごめんなさい。お仕事帰りでお疲れのところに話しかけちゃって」
「それもいいけど…」

どことなく語尾が小さくなるのは、どうやら一馬くんの癖らしい。
これでも実は、大分改善したほうだ。お隣さんに一馬くんが引っ越してたときは、お引越しのそばを食べてる間、ずーーっと一馬くんが無言で、圭介と一食触発状態に陥ってたし。うんうん、あの時は大変だったーそれ見て、坂本くんとかは煽りだすし、小堤くんは苛々して割り箸割っちゃうし。

は、これから仕事、か?」
「あ、はい。そうですよ。ゴミ捨てしてからですけどねー」
「……入れ替わりの時、山口がなんか怒ってたみたいだけど」

わお!どうやら、一馬くん。なかなか部屋に入らずにいてくれたのは、私のことを心配してくれてみたいでした。

「喧嘩でもしたのか?」
「あ、それは大丈夫ですよ。ちょっと、朝起きるのが遅くてフライパンを持ち出されただけで」
「フライ、パン?」
「あれ?まだ一馬くん、圭介のフライパン叩き、聞いたことなかったんでしたっけ?」
「…あんまり、聞きたくない気がする」

それには思いっきり賛同しますよ。私も、あれ聞くたびにどうして世の中にはフライパンと言うものが存在しているのか、って哀しくなるもん。

圭介不機嫌の原因がわかって安心してくれたらしく、一馬くんは強張ってた表情をほんの少しだけどゆるくする。そこに見える、微かだけど確かにある疲労感。やっぱり、一晩勤務したら疲れるものだよねぇ。

「心配してくれてありがとうございます。でも、ちゃんと自分の心配もしなきゃダメですよ」
「俺の心配?」
「はい。一馬くん、自覚してる以上に疲れてるみたいですから。一馬くんにしろ圭介にしろ、無尽蔵の体力持ってるってわけでもないですし、寝れるときにはしっかり寝てくださいねー」

ご近所付き合いの一環として、極々当たり前のことを言ったと思ったんだけど、想像以上に一馬くんは喜んでくれたみたいだった。うわ、なんか瞳がきらきら輝いてるし!

「じゃ、私行きますねっ!」
「あ、ああ。も気をつけろよ」
「あいあいさー!」

ゴミ袋がない方の手を大きく振ったら、一馬くんも笑ってくれた。
これぞ素敵なご近所付き合い。小さいころから、ずっと憧れてたものだ。