#2-2




「うーまだ頭ガンガンするー」
「自業自得だ」

原因は、圭介が力任せに叩いたフライパンとお玉にあるんですけどねぇ。ていうか、さっきの音、絶対アパート全部に響いてるよ。うーまた私、皆に馬鹿にされるんだー!!

「それも自業自得だろ。ほら、三分半経ったから、それ入れろよ」

言いたいことはまだまだあったけど、これ以上言っても無駄だってわかってるから命令された通りにテーブルの上の紅茶をカップに注ぐ。うーん、今日はブレックファーストか。じゃあ、ミルク入れてホットミルクティにしよう。最近、大分朝は冷えてきたしね。

「あ、俺のも牛乳入れといて」
「了解」

フライパンから(さっき私を起こしにきた奴ではない)目玉焼きをお皿に移してる圭介に軽く相槌を送って、キッチン横の白い冷蔵庫を開ける。あ、そろそろ牛乳がなくなりそうだ。買ってこなくちゃ。

「あ、そうだ圭介。私、今日帰り遅くなりそうだから、また夕飯当番代わってー」
「またかよ…じゃあ、お前明日の夕飯担当な」
「うん、それでよろしく」

一年前にアパートを共用しだしてから、私と圭介はお互いの家事も分担して行ってる。もともと、十畳のダイニングキッチンに洋室二部屋のサイズしかない家だから、掃除とか洗濯も協力した方が効率がいいのだ。 まぁ、私の朝の弱さゆえ、朝ご飯は全部圭介に作ってもらってるんだけど。そ、そのかわり洗濯は私がやってるし!夕飯は交互だけど、こうして事前に言えば交代も可能だし。うーん、素晴らしき共同生活。

「帰り遅くなるって、また仕事か?」
「うん、そうだよ。あ、でも今回は比較的楽そうかも。一応、ほとんど情報はあつまってるし」

ほかほかの湯気が立つお皿をテーブルに置いた圭介が椅子に座ったのを確認してから、両手をあわせてご飯に感謝。もちろん、ついでに圭介にも。
正直、失せもの屋って私の本業を圭介がよく思ってないのはしってる。本当は、知らせるつもりもなかったんだけど、さすがに帰りの遅い日が続いたり、びしょぬれになって帰ってくる日があったりしたから不自然に思ったんだろう。四ヵ月前に問い詰められたときは、あんまり圭介が必死だから驚いてしまった。

「…ったく。理由は知らないけど、お前も随分物好きだよな」
「あれ?"も"ってことは圭介もそうなの?」
「いや、俺はしがない美術館の警備員だし。"も"ってのは桜庭とか上原の話だよ」
「あーなるほど」

ちなみに、桜くんと淳くんは探偵事務所の事務員というお仕事をしている。なんでも、探偵である将兄に憧れてその道を選んだらしい。

「でも、物好きってほどでもないよ?私の場合、単に跡を継いでるだけだし」
「それでも十分かわってるよ」

突き放したような口調は、なんだか私に怒っているというよりも、"失せもの屋"という職業に対して腹をたてているみたいだった。


 "失せもの屋"『セフィラクリフォ』

私のお父さんが行方不明になるまで続けていた仕事の名前だ。
内容は、失くしもので困っている依頼人から話を聞いて、それを見つけ届けること。それは物であったり者であったり様々だけど、法とか倫理に触れなければ、どんなものだって探し出す。
…ただし、私はまだ襲名して時間が全然たってないから、"なんでも"って言えるほど実力があるわけじゃないんだけどね。
でも、今まで受けた依頼はちゃんとパーフェクトにこなしてるし。確かに時々水路に落ちたり、ちょっと危険かなーって思える人と喧嘩になったりもしてるけど。
それでも日々成長して、いつかお父さんと同じくらいの"失せもの屋"になってみせるのだ!


「と、いうわけで。止めてもまったく意味無しなのです」
「…わかってる。ま、木田にしろ謡介(ようすけ)にしろ、サポート組がしっかりしてるから、大丈夫だとは思うけどさ」
「ちょっと待って、圭介。それって、私はしっかりしてないってこと!?」
「しっかりしてるっていうなら、朝は目覚ましひとつで起きろよな」

ぐぅ…!い、痛い所をついてくる。でも、しっかりしてると朝が弱い事はイコールじゃないと思うんだけどなぁ。

「それに、朝は体質だからしかたないんだよー」
「はいはい。
 じゃ、俺そろそろ行くわ。後片付け、よろしくな」
「ういー」

いつのまにか、お皿も綺麗に片付けて紅茶まで飲み干してた圭介が立ち上がる。

さて、私も今日の一日のために、せっこら働きますか。