#1-9




装いは、昼間店に来た時よりもずっとカジュアルだった。
高級そうではあるけれど、比較的シンプルな淡いブルーのワンピースに小さな髪飾りがひとつ。これだったら、よくよく観察しない限りお嬢様だってばれることもないだろう。

その点に関しては、まったく可笑しなところはないんだけど…

「……それ」

思わず、口元が引き攣るのを隠すことが出来なかった。
お嬢様の頭の上を歩き回り、次いで肩に乗り移り大きな皮を広げる茶色い生き物。
いや、うん。ちゃんとわかってる。だって、半分透けてるし。私にしか見えてないってのはわかってるんだけど。


「そのムササビ…友達ですか?」
「え…っ!?」


尋ねたあとで思った。モモンガって選択肢もあったかな、と。




「いやーごめんなさい、いきなり。そりゃ、驚きますよね」
「いえ…まさか、もうそこまで調べていて下さってると思わなくて…私こそ、変な声出してしまってごめんなさい」

そう言って俯く仕草は、深窓というよりも単に人見知りが激しいだけの女の子だった。
私とお嬢様の前には、ついさっき坂本くんが持ってきてくれたアイスミルクティーとマドレーヌのお皿。気を利かせてくれたらしく、お嬢様の分まで持ってきてくれているあたり、素晴らしきサービス精神だと感心した。

「それにしても、モモンガがペットなんて、なんかちょっと変わってるんですね」
「そ、そうかもしれないです…でも、いつも私の傍に居てくれる子で……大事な、友達なんです」
「あーなるほど。それで、噂をたよりに、ってわけですか」
「は、はい。最初は、探偵事務所を尋ねたんですけど…お話したら、こちらの方がいいだろう、って」

大分落ち着いてきたのか、そこまで話すとお嬢様はキンキンに冷えたアイスティーのストローに口をつけた。
うんうん。焦ってるときはお茶でも飲んで落ち着くのが一番だ。
ずいぶんと外で待たせてしまったみたいだから、アイスよりもホットの方がよかったかな、と心配だったのだけど、緊張で熱が上がっているらしいお嬢様には、アイスティの冷たさが丁度良いみたいだった。ほっと吐いた息で、表情がものすごく変わってる。

「あの、それで」
「うん、わかってますよ。ご依頼の内容は、二日前新東京から帰ってきたときから行方不明になってるお友達のモモンガ捜索、ですよね」
「それじゃあ…!」

花の咲いた笑顔ってのは、きっとこういうのを言うんだろう。
感情のままに浮かんだ表情に営業スマイルを返すのは心苦しいんだけど、ぶっちゃけ私はこの笑い方しか出来ないから、にっこり営業用で微笑んだ。



「失せもの屋『セフィラクリフォ』におまかせを!」