#0-3




写真に映っていたのは、月夜を閉じ込めたような深い藍。
黒よりも深く、青よりも蒼い澄んだ色。
今までみてきたどんな石よりも綺麗だった。

そう、素直に告げたら、彼は「そうか」といって満足げに笑った。

「それが、次の試験なのか?」
「ああ。おそらく、今までとは比べ物にならないレベルだとは思う。
 だが、これでもかなりサービスしてるだろ?わざわざ写真まで見せてやってるからな」
「…そこまで破格のサービスありってことは、よっぽどなんだな」

これまで十年近く付き合ってきた相手のことだ。彼がここまで俺に情報を与えるということは、情報を得るのは簡単でも、実行に移すのに測り知れないほどの障害があるということ。
…まさに卒業試験、ってやつか。
だけど、それにしてもレベルが高すぎるんじゃないかとも思う。

「お前も随分力をつけた。だから、これが最後の試験だ。
 これは、俺もクリアできなかった山だからな。成功することが俺を越えることになる。まさに、卒業試験にもってこい、だろ?」
「それだけ難しいんだったら、もう少し情報寄越してくれてもいいんじゃないか?」
「よく言うなぁ。どうせ、大方の目星はついてるんだろうに」
「だけど、八つの中のどれかはわからない」

色合いから大まかな予想は出来ても、あの八つの石は言葉では伝えることができない色を持っているというから。
そう告げると、彼はまた満足そうに笑った。

「ほんと…お前は俺の誇りだな」
「このあと、あんたはどうするつもりなんだ?」
「そりゃ、お前を送り出して次の仕事に移るさ。弟子の心配ばかりしても、生活はできないからな」

そう言いつつ、彼が俺を拾ってから一度も"仕事"をしていないことを、俺は知っている。
本当に、最初からだった。
俺を見る彼の眼が、俺を育てる彼の行動が、ずっと泣き続けていたのは。

「…そっか。それならいいや。
 じゃあ、俺そろそろ行くよ。たぶん、下準備に年単位の時間がかかるだろうからさ」
「ああ、水路を走るときは気をつけろよ」
「あのなぁ」

無精ひげを生やした顔が綻ぶのをみるのが好きだった。
だけど、これでもう、二度と逢うことはできないんだろう。

狭いアパートの土間で靴を履き、軽い木の扉を押した時。
小さな声が、背中にぶつけられた。


「新京都。
 俺の……想い出の街だ」