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「…ここか」

船を降りた瞬間の、肌を取り巻く空気が違った。

新東京から船で二日。決して、短い道のりとは言えないけれど、同じ国の中でありながらこんなにも世界が違うことに驚かずにはいられない。
遥か昔の面影を残す町並みは、レンガ造りから再び金属へと移行しはじめている新東京とは比べ物にならないくらいにあたたかで、幾重にも交差する水路の流れも穏やかだ。

取り残された、永遠の楽園。

そうえいば、船の中で覗いた他人のガイドブックに、そんな見出しがあった気がする。
今では旧世紀の国道並に水路が整備され、規則的に舟が行き交うようになった新東京とはまったく違う。ここにはまだ、歩きはじめたばかりの新世紀の面影が残っている。
ガイドブックも強ち間違ってないな。心の中でだけ、そう呟いて肩に食い込む荷物を持ち直した。

「まずは…店を探して確認するか」

新東京よりも個々人の水路移動が主流の街だ。
いずれはウンディーネを買わなければならないだろうが、今はそんな必要もないだろう。

とりあえずは、確認と住処の確保、だな。

じりじりと照りつける夏の日差しを睨みながら、軽い足取りで一歩を踏み出す。

ここが、今日から俺の暮らす街だ。