それは、間違いなく夢だった。
ふわふわと足元が覚束ない浮遊感と、考えているはずなのにちっとも働かない怠け気味の思考回路。歩いているはずなのに地面を蹴る感触はなく、髪はなびいているくせに風は頬に触れない。
わたしは、しってる。このゆめ、ずっとまえから。
目の前に広がるのは、高台から一望できる大きなオレンジ色の太陽と、それによって染まったミニチュアのような街並み。とても日本とは思えないスケールの大きな山々と森が、それらをまた囲むようにそびえている。
わたしは、しってる。このふうけい、ずっとむかしに。
そこで私は、膝を抱えて草の上に座っていた。
視線は目前の夕焼け色に向かっている。ゆっくり、私にはわからない速度で確実に山の向こうへと消えていく歪んだ太陽を、ただ一心に見つめている。
わたしは、しってる。あのゆうやけを、なんども。
少しずつ、オレンジ色の空が高い位置から水、蒼、青、藍へと変わっていく。虹よりも単調なグラデーション。淋しいけれど安定した色彩に、私は何故か苛立ちを感じていた。なぜ?空をみて、なにに腹をたてているというのだろうか。ただ空は、当たり前の時間を経過させているだけなのに。
わたしは、しってる。あのひにかんじた、いきどおりのわけを。
私は知らない。
こんな夢も、こんな風景も、こんな夕焼けも、憤りの理由も。
私は、知らない。
わたしは、しってる。
私は、知らないはずだ。
わたしは、しってる。
ズキリ。痛みのないはずの世界で、頭が鈍く響く。
どくんどくんと心臓の音に合わせて叫ぶ声に、何度も何度も反論を繰り返して、その度に痛む頭を抱えた。
知らない、と呟くたびに鮮明になっていく風景。知らない、と願うたびに浮かび上がる触感。
ただ一度、否定をやめればこの痛みは癒えるんだろうか。そう、頭のどこかで考えたとしても、実行に移す勇気が夢の世界の私にはなかった。
わたしは、しってる。わたしは、しってる。わたしは、
「 ―――――――― また、ここに来ていたのか」
ぐるり、知らない知ってる声がきこえて世界がまわった。
オレンジとインディゴが交じったあたたか場所で、小さな私が泣いているのが見えて。
視界は、消えた。