「アルバもいつの間にか大きくなっちゃったねー」
「そういう姉は、随分ちっちゃくなっちゃったよな」
冗談交じりのおいらの言葉に、姉は昔とまったく変わらない顔で笑った。
晴れた日。町のため池のほとりは、どこかサイジェントのアルク川と似ている。こうして姉と並んで座っていると、時間が戻ったみたいだ。母さんやレイドやみんなと一緒に、ちっぽけだけどあったかな生活をしていた、あの頃みたいに。
だけど、確実に変わってしまっているものもある。
たとえばそれは、おいらの背とか。お互いの身の置き場とか。
それから ―――――― 姉の、こととか。
数年ぶりにあった姉は、おいらと別れたあの時よりもずっと小さくなっていた。
姉とおいらがはじめて逢ったのは、姉が14歳の時だったけど、ちょうどその頃に戻ったみたいに見える。身長もおいらとあんまり変わらないし、実年齢はもう20歳を越えているはずなのに、とてもそうは見えない。
原因は、姉曰く"1回死んじゃったから"なんだという。
その言葉を聞いた時、誇張とか、喩えとかじゃなくて、本当に目の前が真っ暗になった。
「なんか不思議だなぁ。フラットにいたときは、アルバはちっちゃい弟分だったのに…これじゃ、あたしが妹みたいだよね」
「…でも、おいらにとって、姉は姉だよ」
「あはは。またまた、嬉しいこと言ってくれちゃってー!
ま、あたしも同い年だけどずっと、トウヤ兄やんって呼んでたしね。って、もしかして、このサイズだったら、兄やんに違和感無し!?うわ、それもなんか嫌!!」
じゃあガゼルとかリプレはどうなっちゃうんだろう、って本気で悩みだす、真っ直ぐで真剣で一生懸命なところとかを見てると、ほんとは時間って一方通行ばっかりじゃないんだって実感する。
逢えなくなって、寂しかった。
姉とみんなが闘うって聞いて、ほんとはすぐにでも、飛び出して行きたかった。
ずっと、姉のこと、護りたかった。
伝えたい言葉は沢山あったけど、たぶんそれはまだ、おいらの力じゃ伝えられないんだろう、って思う。
ルヴァイド特務隊長や、イオス副隊長に対する姉みたいな、"同等"として扱ってもらえない限り、ダメなんだ。同じ視点で、同じ高さで、挑めるようにならなくちゃ。
「…目の高さがおんなじでも、やっぱり違うよな」
「えっ?なんか言った、アルバ??」
「ううん。姉が変わってなくてさ、よかったなって思って」
「そう、かなぁ?あたしとしては、もっと大人っぽくなりたかったんだけどなーミントさんとか見てると、本気でへこんでくるんだよ、あたしだって」
「…おいらは、姉の方が好きだけどな」
「ほんとっ?アルバにそう言ってもらえると嬉しいな!あたしもアルバのこと大好きだよー」
もっと、もっとこの手のひらで、自分以外の誰かを護れるようになったなら。
その言葉を、違う意味なんだって言えるようになったなら。
そのときは、きっと。ちゃんと、伝えよう。
「おかえり」なんて大きな言葉じゃなくて、おいらだけのほんとの言葉を。
(姉、おいら。ずっと、ずっと ――――― )
穏やかな風が一筋吹いて、遠くから姉とおいらの名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返る、横顔を見て何度だって誓う。
いつか、きっと、おいらの手で。
姉を傷つける全部から、護りぬいてみせる、って。
