ちゃん、ハグー!」

「あのね、美味しいジェラート屋さん見つけたんだ!ちゃんも一緒に行こ〜」

ちゃんはかわいいね。それにドルチェみたいにふわふわで、花みたいにいい匂いがするよ」

「このワンピース、ちゃんにプレゼント!絶対似合うと思うんだ」

「ねぇ、今度のお休みに遊びに来て。ちゃんを案内したいとこ、いーっぱいあるんだ!」

ちゃん」

ちゃん!」

ちゃん!!」







「フェリくん…最近どうしたんですか?」

両手でようやく抱えきれる大きな花束を受け取って、とっさに飛び出たのはそんな問いかけだった。
きっと自分はよほど訝しげな顔をしていたのだろう。じっと見つめたフェリシアーノは眉を下げ、不安げな声で鳴いた。

「ヴェ?もしかして、気に入らなかった?」
「そんなことないです!すごく綺麗だし、私がもらっていいのか不安なくらい嬉しいんです、けど」
「よかったー俺、ちゃんの好きな花、がんばって選んだんだよ!」
「えっ…」

淡いオレンジとイエローのガーベラに、薄桃色のスイートピーにトルコキキョウ、真っ白なカスミソウや色とりどりのチューリップにフリージア、おまけに季節はずれのヒマワリまで。
言われてみれば両腕の中で存在を主張する花々は、どれもが好んで買ってしまうものばかりで、色まで彼女の好みにどんぴしゃりだった。
あれ?私、フェリくんに話したことありましたっけ?
ふわりと香るフリージアに少しだけ顔を寄せ、記憶を探る。けれど、そもそも花の好みなどじっくり考えたこともなかったくらいだ。心当たりはとんとなかった。

「どうして知ってるの、って顔してるね」
「だって、気になるじゃないですか」

もしかして兄に聞いたのだろうか。唯一浮かんだ可能性を確かめようと口を開きかける。けれど、それよりも先に「えへへ〜」と満足げにフェリシアーノが笑った。

「俺ね、ちゃんを喜ばせたくて、ずっと見てたんだよ。ちゃん、どんな花買うのかなーとか、いつ嬉しそうな顔してるかなーって」
「私を…ですか?」
「うん!」

無邪気に大きく頷いたフェリシアーノが一歩近づく。よりも頭ひとつ大きなフェリシアーノとの距離が縮まれば、自然と顔が上を向いた。あれ?フェリくんってこんなに大きかったんだ。口端を僅かに持ち上げ微笑むフェリシアーノの表情は、のよく知っている彼とはどこか違った。

ちゃんには、最近の俺はいつもと違う風にみえたんだね。ふふっ、嬉しいなぁ。ねえ、どんな風に違ったの?」
「え…それは、」
「それは?」

自分の顔が色を変えていくのがわかる。頬どころか耳まで熱くて、隠すように視線を下に向けてしまう。それもこれも、彼がいつもと全然違うせいだ。は暗示をかけるように頭の中で繰り返す。小さい頃のフェリちゃんも、過去に逢ったフェリくんも、こんなふうにわらったりしなかった。こんな、こんな獲物を狙うような尖った瞳で。

ちゃん、耳まで真っ赤だよ。かっわいー」
「そ、んなこと…これまでのフェリくんは言いませんでしたよっ」
「そうだったっけ?うーん、でも俺、決めちゃったんだよね」

かさっと近くで鳴った乾いた音に顔をあげると、腕一本分も離れていない場所に立つフェリシアーノの手の中に一輪のガーベラが握られていた。薄い桃色のそれをくるくると指で遊んで、そっと花弁に口付けを落とす。その仕草のひとつひとつが妙に艶っぽくて、の視線を釘付けにする。くすり。愉しげに笑う声がした。

「あのね、ちゃん。俺、もう待たないって決めたんだ」
「なにを…ですか?」
ちゃんにしたいと思ったこと。前はね、また今度でいいかな、って思っていっぱい我慢してたんだよ」

「でもね」と呟かれた声が冷たくの背を通り抜ける。迫られているわけでも、脅されているわけでもないのに、喩えようのない怯えが足元から湧き上がるのがわかった。逸らせない、視線が捉えたフェリシアーノの細められた瞳が、告げる。
もう、逃がさないよ、と。

「"今"を逃したら、もうチャンスがないかもしれないって気付いたんだ。だからもう、待たないし我慢もしない。伝えたいと思ったことは言うし、したいと思ったときに行動する。
 だって俺、ちゃんのことが好きだから」

くるり、円を描いていたガーベラがすっとに近づく。とっさに瞼を閉じれば、耳元に触れるかすかな体温。すぐに離れていったそれを待って目を開けると、眼と鼻の先に無駄に整ったフェリシアーノの顔があった。


「だから覚悟しておいてね、


俺、本気だから。
その言葉と同時に抱えた花束ごとぎゅっと強く抱きしめられたに、抵抗する方法なんてあるわけがなかった。






ウォームハート

( イタリア男の本気、みせてあげる )